家畜人工授精師になるには?講習会・修業試験・科目免除の条件
家畜人工授精師は、試験を受けるだけでは取れません。講習会の課程を修了し、その修業試験に合格して、都道府県知事の免許を受けるという順序です。講習会は家畜の種類ごとに開かれ、受けられる業務の範囲によって3種類に分かれます。必要な時間は142時間から294時間。ただし大学などで該当する科目を修めていれば、受講と修業試験が免除される仕組みがあります。
結論:3つの段階がある
家畜改良増殖法第16条(家畜人工授精師の免許)。
「家畜人工授精師になろうとする者は、都道府県知事の免許を受けなければならない。
2 家畜人工授精師の免許は、農林水産大臣の指定する者又は都道府県が家畜の種類別に行う家畜人工授精に関する講習会、家畜人工授精及び家畜体内受精卵移植に関する講習会又は家畜人工授精並びに家畜体内受精卵移植及び家畜体外受精卵移植に関する講習会の課程を修了してその修業試験に合格した者でなければ、与えない。」
| 段階 | すること | 根拠 |
|---|---|---|
| 1 | 講習会の課程を修了する | 法第16条第2項 |
| 2 | その修業試験に合格する | 同項・施行規則第24条 |
| 3 | 住所地の都道府県知事に免許を申請する | 法第16条第1項・施行規則第26条 |
※ 家畜改良増殖法および同施行規則より(確認日 2026-10-13)。
「講習会を受ければ取れる」ではありません。修了・合格・申請の3つがそろって免許になります。講習会の開催者と、免許を出す都道府県知事は別の立場です。
講習会は3種類。受けた種類で、できる業務が決まる
法第16条第2項が挙げる講習会は次の3つです。
- 家畜人工授精に関する講習会
- 家畜人工授精及び家畜体内受精卵移植に関する講習会
- 家畜人工授精並びに家畜体内受精卵移植及び家畜体外受精卵移植に関する講習会
同条第3項は、免許を与えられた者は「その者が合格した前項の修業試験に係る家畜の種類についてのみ」、その免許に係る業務を行うことができるとしています。
施行規則第30条が定める家畜人工授精師名簿の記載事項にも、第28条が定める免許証の記載事項の変更の対象にも、免許に係る家畜の種類と業務の別が入っています。
家畜の種類の扱いについて、農林水産省の通知は、法第16条第2項の「家畜の種類別」についてめん羊及び山羊は同一種類として実施すると定めています。
選ぶものが2つあります。どの家畜かと、どこまでの業務かです。牛の人工授精だけの講習会を修了した人は、牛の人工授精ができる免許になります。
免許でできる仕事の範囲は別の記事で詳しく扱います。
必要な時間は142時間から294時間
施行規則第23条が、講習会で課すべき科目と時間を「少なくとも」の形で定めています。
| 講習会 | 学科 | 実習 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 家畜人工授精 | 68時間 | 74時間 | 142時間 |
| +家畜体内受精卵移植 | 116時間 | 150時間 | 266時間 |
| +家畜体外受精卵移植 | 123時間 | 171時間 | 294時間 |
※ 施行規則第23条の各科目の時間を当サイトが合計したもの(確認日 2026-10-13)。「少なくとも」と書かれているので、これを上回る開催もあり得ます。
家畜人工授精に関する講習会の内訳です。学科は一般科目が22時間(畜産概論4・家畜の栄養3・家畜の飼養管理3・家畜の育種7・関係法規5)、専門科目が46時間。実習は74時間で、そのうち家畜人工授精及び家畜人工授精用精液の保存が45時間を占めます。
実習74時間のうち45時間が人工授精そのものの実習です。手を動かす時間が中心の講習会だと分かります。
体内受精卵移植まで含めると266時間、体外受精卵移植まで含めると294時間で、人工授精だけの約2倍になります。
開催期間について、農林水産省の通知より。
「講習会の開催に当たっては、受講者の便宜を考慮してその開催期間が家畜人工授精に関する講習会にあっては、おおむね1ヶ月を、家畜人工授精及び家畜体内受精卵移植に関する講習会並びに家畜人工授精並びに家畜体内受精卵移植及び家畜体外受精卵移植に関する講習会にあっては、おおむね2ヶ月以内とする。」
142時間を1か月で終える日程です。千葉県が令和8年度に開く牛の講習会は、令和8年11月9日から12月9日までの土日祝を除く22日間。142時間を22日で割ると1日あたり約6.5時間で、通知の「おおむね1ヶ月」と合います。
仕事を持ちながら通うのは、まとまった期間の確保が前提になります。
修業試験を受けるには、約8割の出席が要る
施行規則第24条第2項から第4項は、受講時間が定められた時間に「達しない者は」修業試験を受けることができないとしています。学科の科目を通じての時間と、実習の科目を通じての時間が、それぞれ別に定められています。
| 講習会 | 学科の科目を通じて | 実習の科目を通じて | 開講時間に対する割合 |
|---|---|---|---|
| 家畜人工授精 | 55時間 | 60時間 | 学科80.9%/実習81.1% |
| +家畜体内受精卵移植 | 93時間 | 120時間 | 学科80.2%/実習80.0% |
| +家畜体外受精卵移植 | 99時間 | 137時間 | 学科80.5%/実習80.1% |
※ 時間は施行規則第24条第2項〜第4項。割合は第23条の開講時間から当サイトが計算したもの(確認日 2026-10-13)。学科と実習は別々の条件で、両方に達していないと受験できません。合算して足りていれば良いという書き方ではありません。
どれも8割あたりに設定されています。実際、免除を受けた人の受験要件を定める施行規則第24条の2は「十分の八を乗じて得た時間(一時間未満の端数があるときは、これを一時間に切り上げた時間)」という計算式を使っていて、当サイトが開講時間を0.8倍して切り上げた6つの数字は、第24条の時間とすべて一致しました。
科目免除を受けない場合は、学科でも実習でも、2割を超えて休むと試験を受けられなくなります。科目免除を受けた人にはこの時間がそのまま当てはまらず、残った科目について計算し直した時間になります(施行規則第24条の2第8項〜第10項)。科目免除の仕組みで扱います。
修業試験の合格基準には、2つの足切りがある
農林水産省の通知(4畜A第2651号・平成4年11月19日。一部改正 平成12年4月3日付け12畜A第745号、平成20年11月28日付け20生畜第4996号)より。
「修業試験の合格基準は、100点満点で全科目(実習を含む。)平均60点以上(50点未満の科目が2以上ある場合、又は40点以下の科目がある場合を除く。)とする。」
条件は3つです。
- 全科目(実習を含む)の平均が60点以上
- 50点未満の科目が2以上あると不合格
- 40点以下の科目が1つでもあると不合格
同じ通知は、合格基準を受験要領に記載するなどして公表すること、試験問題を試験終了後に速やかに公表することも定めています。
平均60点だけを見ていると外します。40点以下が1つあれば、ほかが良くても合格になりません。実習も科目に含まれる点も見落としやすいところです。
科目免除の仕組み
施行規則第24条の2は、受講と修業試験の免除を定めています。免除されるのは試験だけではなく、受講と修業試験の両方です。
| どんな人か | 免除されるもの | 条文 |
|---|---|---|
| 大学その他農林水産大臣の指定する教育機関で、特定科目等の全部または一部を修めた者 | その修めた科目についての受講・修業試験 | 第1項 |
| 他の種類の家畜について修業試験に合格している者 | 一般科目についての受講・修業試験 | 第2項 |
| 牛について家畜人工授精の修業試験に合格している者 | 受精卵移植の講習会のうち、人工授精の科目についての受講・修業試験 | 第3項 |
| 牛以外の家畜について家畜人工授精の修業試験に合格している者 | 受精卵移植の講習会のうち、一般科目についての受講・修業試験 | 第4項 |
| 牛について家畜人工授精及び家畜体内受精卵移植の修業試験に合格している者 | 体外受精卵移植の講習会のうち、体内までの科目についての受講・修業試験 | 第5項 |
※ 施行規則第24条の2より(確認日 2026-10-13)。
第3項と第4項の差が大きいところです。牛で人工授精を取っていれば、受精卵移植の講習会で人工授精の科目がまとめて免除されます。牛以外で取っていた場合は、免除されるのは一般科目だけです。
同じ「人工授精の免許を持っている」でも、それが牛かどうかで次に受ける講習会の負担が変わります。
免除を受けるには書面の提出が要ります。大学等で修めた場合はその科目を修めたことを証する書面を、修業試験に合格している場合は合格していることを証する書面を、いずれも講習会の開始予定日までに開催者へ提出します(第6項・第7項)。
提出する書面について、農林水産省の通知は、大学等で修めたことを証する書面の様式を別記様式第1号とし、修業試験に合格していることを証する書面は「修業試験に合格した旨の証明書若しくはその写し又は家畜人工授精師免許証の写し」としています。
免除を受けた人の受験要件は、残った科目について計算し直します(第8項〜第10項)。同じ通知は、この受講時間の短縮について「受講者がその科目について十分な知識及び技能を有すると認められる場合について行う」としています。
大学等で免除の対象になる科目(特定科目)
第1項の免除の対象になる科目は、施行規則第23条第4項が「特定科目」として定義しています。家畜人工授精に関する講習会では次の9つです。
畜産概論、家畜の栄養、家畜の飼養管理、家畜の育種、生殖器解剖、繁殖生理(神経・内分泌及び雌繁殖生理)、精子生理(雄繁殖生理)、種付けの理論(妊娠と分娩)、家畜の審査及び発情鑑定
受精卵移植を含む講習会では、これに体内受精卵移植概論、受精卵の生理及び形態、体外受精卵移植概論が加わります(第5項・第6項)。
裏返すと、特定科目に入っていない科目は免除されません。家畜人工授精に関する講習会で言えば、学科の関係法規(5時間)と家畜人工授精及び家畜人工授精用精液の保存(17時間)、実習の精液精子検査法(8時間)と家畜人工授精及び家畜人工授精用精液の保存(45時間)が残ります。
仮に特定科目の全部が免除されたとすると、残るのは学科22時間・実習53時間。第24条の2第8項の計算式(0.8倍して切り上げ)に当てはめると、受験に必要な受講時間は学科18時間・実習43時間になります。畜産系の学部で学んだ人でも、人工授精そのものの実習45時間は受けることになるという作りです。
※ この時間は、施行規則第23条の科目別の時間と第24条の2第8項の計算式から当サイトが計算したものです。実際にどの授業科目が特定科目として認められるかは、受けようとする講習会の開催者や都道府県が判断します。
免許の申請に要るもの
施行規則第26条は、免許を受けようとする者が申請書に添える書類を5つ挙げています。提出先は住所地を管轄する都道府県知事です。
- 戸籍謄本・戸籍抄本、または本籍の記載がある住民票の写し等
- 講習会の修業試験に合格した旨の証明書の写し
- 視覚、聴覚、音声機能若しくは言語機能、上肢の機能若しくは精神の機能の障害、または麻薬若しくは大麻の中毒者であるかどうかに関する医師の診断書
- 法第17条第1項または第2項第3号・第4号に該当するかどうかの別を記載した書面
- 第2項第3号に該当する場合は、その確定判決謄本
医師の診断書が要ります。試験に合格してから用意するものなので、合格後の段取りに入れておく部分です。
長野県は、手数料の納付方法として従来の収入証紙に加えて電子申請サービスによるオンライン決済も選べるようになったと案内しています。手数料の額や納め方は都道府県で違うので、申請先の案内で確認してください。
免許が与えられない場合
法第17条第1項は、この法律・家畜伝染病予防法・薬機法・獣医師法・獣医療法・家畜商法またはこれらに基づく命令に違反して罰金以上の刑に処せられ、執行を終わり、または執行を受けることがなくなった日から2年を経過しない者には免許を与えない、としています。
同条第2項は、心身の障害により業務を適正に行うことができない者として省令で定めるもの、麻薬又は大麻の中毒者などには免許を「与えないことができる」としています。
省令で定めるものは施行規則第26条の2が2つ挙げています。視覚・聴覚・音声機能・言語機能または精神の機能の障害により認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者と、上肢の機能の障害により業務に必要な技能を十分に発揮することができない者です。
該当すると認める場合でも、そこで終わりではありません。施行規則第26条の3は、免許を与えるかどうかを決定するときに、現に利用している障害を補う手段や現に受けている治療等により障害が補われ、または障害の程度が軽減している状況を考慮しなければならないとしています。
法第17条第3項は、第2項第1号に該当すると認めて免許を与えないこととするときは、あらかじめ申請者に通知し、その求めがあったときは都道府県知事の指定する職員に意見を聴取させなければならないとしています。
障害があることだけを理由に自動的に不許可になる作りではありません。補う手段や治療の状況を見ることが条文で求められています。
なお、確認した範囲では、家畜人工授精師について作業を限定した条件付きの免許を定めた条文は見当たりませんでした。この点は潜水士免許と違います。
まとめ
- 免許までは講習会の修了 → 修業試験の合格 → 都道府県知事への申請の3段階
- 講習会は家畜の種類別に、業務の範囲で3種類開かれる。免許は合格した家畜の種類についてのみ有効
- 必要な時間は142時間/266時間/294時間(施行規則第23条の各科目を合計)
- 修業試験を受けるには約8割の出席が要る(115/213/236時間)
- 合格基準は平均60点以上。ただし50点未満が2科目以上、または40点以下が1科目でもあると不合格。実習も科目に含まれる
- 大学等で修めた科目、他の家畜での合格は受講と修業試験が免除される。牛で人工授精を取っていると免除の範囲が広い
- 免除の書面は講習会の開始予定日までに開催者へ出す
- 免許の申請には医師の診断書が要る
- 免許を与えない場合でも、補う手段や治療の状況を考慮しなければならない。与えないときは通知と、求めがあれば意見の聴取がある
情報源:e-Gov法令検索「家畜改良増殖法」第16条〜第18条、同「家畜改良増殖法施行規則」第23条・第24条・第24条の2・第26条・第26条の2・第26条の3、農林水産省「家畜人工授精に関する講習会、家畜人工授精及び家畜体内受精卵移植に関する講習会又は家畜人工授精並びに家畜体内受精卵移植及び家畜体外受精卵移植に関する講習会の運営等について」(4畜A第2651号)、千葉県「家畜人工授精師免許について」、長野県「家畜人工授精師免許申請について」(確認日 2026-10-13)